名古屋市の認知症、動脈硬化、自律神経失調症、その他脳、神経に関する専門的クリニック

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物忘れとど忘れ

 患者さんの中で"俳優さんの名前が思い出せない"、"何をしに台所へ行ったのか忘れた"等といった不安を訴える方がいますが、これらは全く心配要りません。これらは「ど忘れ」なのです。「ど忘れ」とは、一端覚えた事を思い出すのが困難な状態を指します。まず認識せねばならないのは、ど忘れは「物忘れ」とは違うという事です。通常、物忘れの前にど忘れが起こると考えて結構です。物忘れとは、ある事柄を覚えようとしても覚えられない状態で、「記憶障害」と呼ばれます。一方、ど忘れは覚えている事を思い出せない状態で、専門的には「想起障害」と呼ばれます。想起障害も記憶障害の一つとも言えますが、厳密には異なります。認知症における中核症状は記憶障害で、想起障害ではありません。

 人は20歳頃から神経細胞がどんどん減少していき、"忘れる"ことは当然の現象として現れます。まず出現するのはど忘れ、その後に物忘れが続きます。従って一般の老化では、ど忘れが物忘れより強い場合が多いのです。しかし認知症では、物忘れの度合がど忘れよりグッと強くなるのです。「思い出せない」だけでなく、「覚えられない」為、生活に支障が出て、周りに迷惑がかかります。通常の老化でも物忘れは起きますが、周りに迷惑をかける程には達しませんから、もっと軽症のど忘れは周りに迷惑がかかるはずはありません。

 いわゆる物忘れを心配する患者さんは、まず自分の忘れ方が物忘れなのか、ど忘れなのかを分けてみる必要があります。案外、ど忘れだけだったりする事もあります。例え物忘れがあったとしても、ど忘れのほうが強いようなら、認知症であることはまずないでしょう。

 以上のように、"思い出す事"と"覚える事"は別物で、認知症では後者が強く障害されますが、認知症における訓練はどちらを鍛えるべきでしょう? 常識的には障害の強い"覚える事"を鍛えるべきですが、実際はそうでないようです。現時点では認知症の根治療法はありませんので、どうしても「物忘れは仕方なし」という風に対応すべき面もあります。物忘れをあまり気にしすぎると、むしろストレスで認知症が悪い方へ進む場合も多いので、"思い出すこと"を重点的に強化するのが訓練の現状だといえます。日記(その日あった出来事を思い出す)、回想療法(昔の体験を思い出す)などがその例です。どちらの訓練が望ましいのか、私にはわかりませんが、"思い出す訓練"の方が容易であることは確かなようです。

 

人の名前

貴重品の場所

食事

買い物

老 化

すぐに出ない

納めた場所を
思い出せない

一部の品が
思い出せず

必要品は忘れない

認知症

関係が判らず

納めた事を忘れる

食事した事を
忘れる

不必要な品を買う

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