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老人にはうつが多い

 うつ状態を、器とその中の水に例えて説明したいと思います。うつは何らかのストレスが心に溜まって、"一杯一杯"になり、心が支えきれないまで追い込まれた状態と考えることが出来ます。心を器、ストレスを水に例えると、理解し易いと思います。

 ストレス社会の中では、生活していくうちにストレス、すなわち器の中の水が増えていくのです。もともと器の小さい人、あるいは水が普通より溜まり易い人は、水が簡単に一杯になり、溢れてしまいます。これが壮年者のうつ病であると考えます。「器が小さい」というのは、「人間が小さい」という意味では勿論なく、体質的に傷つきやすい、感じやすいといったような、生まれながらの性格をさします。一般人ならそれほどのストレスにならない事柄でも、すぐにストレスにして溜め込んでしまうのがうつ病患者なのです。また器は普通でも、水がどんどん溜められていくような生活をしている人も、水が溢れてしまいます。限界以上に仕事を課せられた人、職場や家庭内の問題が解決できず追い込まれてしまう人などは、ストレスという水がどんどん器に注がれる訳です。

 以上のように、うつというのは器とその中に入った水の関係で生じると言えます。高齢者の場合はどうでしょう? 高齢者では、若い時より器が小さくなっていくと考えねばなりません。年輪を重ねると、経験で多少のストレスにはへこたれない方も多いのですが、心身の能力は加齢とともに確実に低下していくのも事実です。若い時より筋力、バランス感覚は落ち、記憶力も低下することは避けられないのです。そのような高齢者が若い時と同程度の仕事、難題をこなそうとしても無理があるのです。経験だけでは切り抜けられない場合も多いのです。そのような観点から、老人にはうつが多いと考えてよいでしょう。

 それではどうすれば良いのでしょう? 前にも述べたように、こなすべき仕事量を減らすしかないのです。器が小さくなる分だけ、入れる水を少なくせねばならないのは当たり前です。高齢者がうつ状態になるのは、若い時と同じつもりで、同じ量の水を入れようとするからであり、そのことに気づいて水の量を減らすかどうか悩む数年間が、高齢者のうつの時期と言えます。ある種のあきらめも必要なのです。その代わり、延々と続くことの多い若い人のうつ病と異なり、数年以内に解決されます。延々と薬を飲まねばならないことはなく、放っておいても自然に消失するのが常と考えます。その時期は、"壮年から老年への過渡期"と割り切って入れる水を減らす努力をすれば良いのですが、極端に減らすと"空の器"、すなわち認知症に移行する危険もあるので注意が必要です。適度な仕事量を選択することが大切です。

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