名古屋市の認知症、動脈硬化、自律神経失調症、その他脳、神経に関する専門的クリニック

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動脈の旅

 少し専門的な話ですが、体内において動脈はどのような働きをするか考えてみたいと思います。動脈は心臓から送り出された血液を体の隅々まで送り届ける道路なのです。この道路を通って、血液は酸素や栄養素を体の各部位まで運ぶのです。さて、この道路の"旅"にどのような苦難が待ち構えているのでしょう?

 心臓から出たばかりの太い動脈は、心臓の収縮・拡張の影響をもろに受けますから、頑丈でなければなりません。頑丈とは硬いというのではなく、ある程度厚く弾力性があることを意味します。心臓の動きでいちいち伸びたり縮んだりしていては、その先の動脈への血流が変化してしまいます。太い動脈は丈夫なゴムのように心臓からの圧に耐えるのです。

 動脈は内側から内膜、中膜、外膜の3層構造になっていますが、太い動脈は圧に耐えねばならないため、内膜がかなり厚くなっています。動脈硬化は内膜から始まりますので、太い動脈から動脈硬化は始まる傾向があります。しかし内腔が大きいので、つまることは一般的にありません。その代わり、硬くなったゴムに圧を加えた場合のように拡張していくのです。破裂することもありますが、硬くなった動脈は血液を先へ送る機能が低下します。

 さらに動脈の旅を続けると、だんだん道路が細くなっていきます。太い道路(動脈)から無事にたどり着いた血液は、これから細い道路を通って目的地まで到着せねばなりません。その時点では、心臓からの影響は少なくなってきており、今度は動脈自体が血流を一定にするよう、その太さを調節します。脳動脈のような細い動脈がこれにあたります。細い動脈の外膜には交感神経が配属されており、状況によって動脈を収縮させたり拡張させたりするのです。

 例えば、寝ていて立った場合、脳は心臓より高い場所にありますから、重力の関係で血液は届きにくくなります。そこで交感神経が活発に働き、心臓の活動を強める他に、細い動脈を収縮させて血液を上に押し上げようとするのです。しかし、もし動脈硬化が細い動脈まで及んでいたなら、収縮の際につまってしまう危険も生じます。がたがた道になった細い道路がさらに狭くなったら、交通渋滞が起こってしまうようなものです。脳動脈にこのような事態が生じれば、脳梗塞につながる場合もあります。

 以上のような苦難を乗り越えて、やっと血液は脳などの目的地にたどり着くのです。みなさん、道路の整備、すなわち心臓や動脈硬化の管理は万全でしょうか?

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