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立った時起こるフラツキ

 耳から起こるフラツキ(めまい)と脳から来るフラツキは少し異なります。耳から来るめまいは「天井が回る」感じであるのに対して脳から来るふらつきは足元がゆらゆら揺れる「雲の上を歩く」感じです。私がフラツキを訴える患者さんに詳しく尋ねるのは、"フラツキの起こった時の体位、姿勢"です。

脳から来るフラツキは、立ち上がった時、歩いている時など、ほぼ例外なく体が立っている時、つまり足を使って体を支えている時に起こるのです。こんな時、重力の関係で血液は足に下がり易く、場合によっては脳に血液が行きにくくなります。いわゆる「脳貧血」がフラツキの原因なのです。

 一旦足に降りた血液が、脳に戻らない原因は、大きく2つに分かれると私は考えます。一つは起立により血圧が低下して(起立性低血圧)心臓から脳へ血液を押し上げるだけの血圧が保てなくなる場合です。若い女の子が立ちくらみで倒れるのも脳貧血です。時には失神することもあります。しかし横になっていれば、すぐに回復します。このような脳貧血は、やせた人に多い傾向があるようです。 もう一つの原因として、動脈硬化が考えられます。立っている時、心臓から重力に逆らって血液が脳まで届けられるのですが、その途中の動脈がガタガタしていて、柔軟に伸び縮みしないなら、途中で血流が途絶える危険も起こります。硬くなり、つまりかけた管の中を水が流れにくいのと同じ理屈です。このようにして起こるフラツキは、動脈硬化を有する高齢者に多いのが当然です。動脈硬化の進んだ動脈の中で血液が滞ると、血栓が生じる場合があります。その結果、脳梗塞に進展することもあります。高齢者の脳貧血は、フラツキだけに留まらず、脳梗塞につながる危険があるのです。

 さらに高齢者の場合、運動不足や心機能の低下などのために、先に述べた起立性低血圧が同時に起こる場合もあります。脳貧血の原因となる起立時の血圧低下と動脈硬化が合体すると、さらに脳貧血や脳梗塞の危険も高まるものです。

 寝ていて頭の位置を変えた時に起こるめまいは、まず心配要りません。しかし立っている時に起こるフラツキは、時に脳梗塞につながることがあることを、頭の隅に置いておかねばなりません。

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